羊は人間の顔を認識していなかった――2017年の研究結果に反論

動物

2017年に発表された羊に関する研究は、動物の持つ認知能力の新たな可能性を感じさせる画期的なものでした。

それは羊が立体的でない人間の顔を認識できるというもので、当時の学会をにぎわせました。

社会的動物として知られる羊が、仲間の羊や飼い主を認識していることは事実です。

しかしこの研究が注目を浴びたのは、羊が平面的な人間の顔――つまり写真の顔を認識したという点でした。

 

今年に入って複数の研究者たちが、あの羊に関する研究はあまりにも条件が限定的だった、として反論の声をあげました。

人間はほとんど考えることなく他人の顔を認識することができますが、動物の場合それはなかなか難しいというのが常識です。

動物の可能性を広げた羊の研究はどのように誇張され、またその真実とは一体なんだったのでしょうか。

 

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厳密なテストとはいえない条件

 

 

2017年にイギリスのケンブリッジ大学で行われた羊の研究は、8頭の羊が4人の有名人の写真を覚えるところから始まりました。

有名人は――バラク・オバマ大統領、俳優のジェイク・ギレンホールとエマ・ワトソン、そしてジャーナリストのフィオナ・ブルースの4人でした。

人選の理由はオンラインで画像がたくさん入手できたから、というものです。

 

提示された2つの写真のどちらかを選択する実験において、羊は79%の確率で覚えた4人を選択しました。

髪型を変えたり見せる角度を変えるとそれが67%に落ち込みましたが、当時の研究者はこの結果を羊が人間の顔を認識している証拠と主張しました。

 

結果だけを見るといかにも信憑性が高いように思えますが、反論している研究者たちは別の見方をしています。

彼らは人間が同種の実験を行った場合を例に出して反論しました。

 

人間の顔認識に関する研究では、参加者はかなりの数の顔を認識することが求められます。

実際の過去の研究では、一度に24の顔を認識させた例がありました。

参加者は顔の記憶に、羊が必要とするよりもだいぶ少ない時間しか割り当てられませんでしたが、それでも結果は(もちろん)羊よりも高い正確性を示しました。

一方羊の実験では、羊たちが覚えなければならない顔の数はわずか4つでした。

 

羊の顔の認識能力に疑問を唱える研究者たちは、羊たちの顔認識能力が人間のそれに「匹敵している」とした2017年の研究結果は誇張であると結論づけています。

そして匹敵するレベルであると断定するためには、さらなるデータが必要であると付け加えています。

 

それでも動物は人間のことを認識している

 

オーストラリアの研究者たちにとってなんとも歯がゆかったのは、「匹敵する」という部分でした。

確かに2017年の実験は、羊が正しい顔を“選んだ”とするには対象が少なすぎます。

羊が覚えた顔の数は4つと少ないため、この結果をもって羊に顔認識能力があると断定するには、データが不足していると言えます。

 

2017年の実際の実験風景――いわゆる2択方式を用いている。 Image Credit: University of Cambridge

 

もっとも今回の指摘は、羊の学習能力を否定したものではなく、あくまでその能力が人間に及ぶものではないことを主張したものです。

 

実際羊に限らず動物の多くが、人間の顔だけでなく人間のしたことさえも記憶しています。

身近なペットたちはもちろん、人類の近親者であるチンパンジーや、ハトやカラスといった鳥類に至るまで、動物たちが信じられないほどの記憶力を持っていることは知られています。

(特にカラスは自分を攻撃した人間のことをよく覚えています。そして彼らは仲間にそのことを伝える能力があります)

 

また前回の研究には、認知機能低下の症状に苦しむ患者への有効な治療法を探る目的もありました。

羊の認知能力をテストすることは、認知機能の低下に苦しむ人たちの新しい治療法につながる可能性があると当時の研究者は述べています。

 

 

 


 

思っていたほど羊が人間の顔を認識していなかったかもしれない、というのは残念な結果です。

しかし彼らが実験に参加したおかげで、病気で苦しむ人たちを救う道が開かれました。

羊の顔の認識能力については今後の研究を待つべきですが、少なくとも羊が人間にとって大切な動物であることは間違いありません。

 

以下にケンブリッジ大学が行った2017年の研究動画があるのでよかったらご覧ください。

Sheep can recognise human faces from photographs

 

 

 

 

Source:livescience